2013年6月8日

「未来に後悔しないために」

田中優無料メルマガ http://archive.mag2.com/0000251633/20130601163254000.html より


未来に後悔しないために
原発事故の日から


 東日本大震災が起きたとき、ぼくはとっさに原発のことを思った。
それは特別なことではなく、毎回地震が起きるたびに原発が危険になることを知っていた
からだ。

 チェルノブイリ原発事故でさえ、事故の22秒前に地震が起きていた。それは後になって
デンマーク国営放送が放映した、「チェルノブイリ原発隠された事実」といドキュメンタ
リーで示されていることだ。


 原発一基に120キロメートルに及ぶ配管があるのだから、地震でずれたり折れたりすれば
事故につながる。特に地震で不当沈下を起こせば、重要な配管がずれてもおかしくないのだ。
すぐにインターネットで調べ始めた。


 残念なことに、それは悪い結果に向けて進行していた。送電線が倒れて電気が届いていない。
津波が襲って緊急冷却に必要な予備発電機を流してしまった。肝心なモニタリングポストは
すべて調整中となり、放射能量がわからない。ぼくが買って持っていたガイガーカウンター
は人に貸したままになっていて、自宅で調べることができない。風向きを調べても、肝心な
福島原発周辺だけが表示されない。そんな中、脱原発の仲間たちのデータとネットワーク
だけが頼りだった。

 
 そして3月15日未明、風向きが変わった。「今日、東京に放射能が来る」と理解した。
そこで朝早く、ぼくのメルマガで通知した。可能なら東京を脱出してほしい、無理なら
マスクをつけ、内側のガーゼを濡らし、海藻類を食べておいてほしいと。


 直後に政府寄りの医師たちの団体が、「マスクは無意味」「海藻はかえって副作用がある」
と通知した。
それらは後にすべて否定されている。デマは政府寄りの医師たちによって流されたのだ。


▼ 信じる者は救われない


 それでも今なお、私たちは相反する情報の中に漂流を続けている。多くの人はこれだけ
間違った情報を与えられて、なお政府や権威を信じ続けている。


 2013年2月、福島県内で調査された子どもたちの中から甲状腺がんの子どもが見出され、
手術を受けた。数はこれまでで3人、さらに強く疑われる子どもは7人いる。少ない数と
思うだろう。

 しかし原発事故以前の小児甲状腺がんは100万人に一人の確率だった。では300万人の
子どもを調べた結果だったのか? いや、調べられた子どもの数は3万8千人にすぎない。
それでもなお原発事故のせいではないと強弁する。


 チェルノブイリの時ですらそうだった。放射性ヨウ素を吸い込むと甲状腺に貯まる。
そこがあらかじめ放射性でないヨウ素によって占められていれば貯められなくなるから、
ヨウ素剤を配布したりするのだ。チェルノブイリで甲状腺がんが増えたのは、海藻を食べ
る習慣のないヨウ素が恒常的に不足する地域だったからで、放射能のせいではないとして
いたのだ。
 ではなぜ今の事態が起きるのか?


 福島県は安全・安心キャンペーンを繰り広げ、基準値以下なら食べても安全とPRし、
せっかく避難した人たちを帰還される政策を強引に続けている。政府はこれまでの基準を
かなぐり捨て、余剰被曝量1ミリシーベルト未満という基準を、20ミリシーベルトに上げ
てしまった。

 これまではドラム缶に詰めて保管された100ベクレル以上の汚染物が、食べ物やがれき
の受け入れ基準と同じレベルだ。これまでドラム缶に詰められてきた放射性物質を町に
ばら撒いた方が、今より汚染レベルが下がる。それほど町中が汚染された。


 特に危険なのは食べ物だ。体内に入ったセシウムは、従来からあった自然放射能と
違って蓄積され、排出されにくい。体内に入ったセシウムがどれくらい貯まるものか、
ためしに計算してみた。

 政府基準の汚染食品を食べていたら体内のセシウムレベルは300ベクレル/体重kgを
超えてしまう。チェルノブイリでは、5ベクレル/体重kgを超えると心電図に異常が
出たり、後に膀胱炎を引き起こしていたというのに。


▼ 後悔するか、対策するか


 福島で不幸中の幸いだったことがある。まず偏西風地帯の日本の、東端の原発事故
であったことだ。

 おかげで放射能全体の8割近くが海側に流れた。さらに火山国である日本の土壌には
粘土層が多く、セシウムは粘土に閉じ込められると出られなくなる。ロシアの土壌と
違って、作物に移行するセシウム量は少なくなる。しかも食品流通が発達している
日本では、チェルノブイリのように地産地消せざるを得ない状況にはない。それだけ
汚染食品を避けるチャンスがある。


 さらに日本には、世界に冠たる発酵食品文化がある。発酵食品はラットの実験で
放射能を浴びせても長生きしているし、がん化を防ぐ抗酸化物質を多く含む植物を
よく食べる文化でもある。
ぬめり成分である食物繊維は、体内のセシウムを効率よく体外に排出してくれる。


 逆に不幸だったのは人口密集地に汚染が降り注いだことだ。さらに互いに抑制し
あって、デマでも信じ合うことで「和を尊ぶ」人たちが多いことも事態を悪化させ
ている。


 チェルノブイリ事故で多発したのは、がん以上に病気だった。そのことは政府が
きちんと調べたウクライナで公表されている。病気の多発した時期と重ね合わせると、
日本で多くの人に病気が発生するのは2017年になるだろう。

 そのときに安心していられるのか、それとも大切な人に病気が出て後悔し続ける
ことになるのか、それが今の時点の選択によって決まるのだ。


 特にセシウムは甲状腺と筋肉に貯まるので注意が必要だ。心臓は筋肉の塊だから、
おそらく心電図異常と心筋梗塞が増えるだろう。子どもですら目の下に隈が現われ、
疲れやすくなり、突然死する人の数も増える。それでも原発事故との関連性は否定
されるだろう。しかし今は安全な時ではない。


 自分の人生を決することができるのは自分でしかないのだ。
たとえ汚染地に住まざるを得ないとしても、そこでできるだけのことをしてほしい。


※電子書籍ポータルサイト only free paper
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 「拡散希望〉臨時増刊第2号WEB版」に寄稿したものを好意を得て転載しています。