2016年6月30日

『 天災より人災に注意せよ 』

2016.6.24発行 田中優無料メルマガより

『 天災より人災に注意せよ 』


■阿蘇の「流動性地すべり」

 熊本で震災が起こり、たくさんの友人たちがボランティアに出かけて行った。もう少し若ければ行きたいと思うものの、足手まといになりかねなくて躊躇する。しかしボランティアは現地に出かけるだけが能ではないと思い直す。調べられる限りのことを調べることの方が、ぼくには向いているボランティア活動ではないか。

 そう考えていくつかの事故の原因を調べてみた。気にかかったのは土砂災害だ。
日本には多いのだが、火山灰が降り積もった上に粘土層が発達し、その後に再び火山灰が降り積もった地層がある。すると火山灰は水を通すのに粘土層は通さない。そのおかげでなだらかな斜面であるのに、土砂崩れを起こすことがある。 これを「流動性地すべり」と呼ぶ。

 今回阿蘇地方で起きた土砂災害は、この流動性地すべりであったことが確認されている。しかし火山灰層と粘土層だけでは土砂崩れにならない。さらに水の流れと引き金を引く地震などが必要だ。するとこの水が問題になる。どこから水が流れ込んで地滑りを起こしたのだろうか。





■産業遺産「黒川第一水力発電所」

 ここに102年前に建設され、九州に初めて光を灯したという「黒川第一発電所」が関わってくる。産業遺産に認定されているこの水力発電所は、直接ダムから水を落として発電する形式ではない。遠くの貯水池から延々と水路を引き、落差が取れるところで水圧管に水を落として発電する形式だ。その水圧管の前に一万トンの水槽を設けて、そこから水を落として発電する。




 その水槽が4月16日の地震で破壊された。南阿蘇村立野の新所地区では地滑りが発生し、土砂災害により二人の犠牲者を出した。これについて所有者の九州電力は、一か月以上経った5月24日になって謝罪した。土砂災害と水槽決壊との因果関係は不明だが、水が地区に届いたのは事実だとして。

 そのすぐ近くの南の斜面で大きな土砂崩れが起きている。テレビで繰り返し放映された阿蘇大橋の崩落現場だ。阿蘇大橋は土砂崩れによって崩壊したものと見られているが、そこの流動性地すべりを起こした水はどこにあったのだろうか。3月は雨量が少なく、4月7日に熊本市にまとまった雨が降っているが、一週間経っている。雨が多く降ったのは、地震発生後なのだ。一週間前の雨で地面が緩んではいただろうが、もしそれだけなら他の地域にも同様の土砂崩れが発生していただろう。

 そしてよく記事を追ってみると、黒川第一発電所からあふれた水は水槽からだけではなかった。貯水池から水を引く水路も16日に破壊され、その漏水量は20万トン、水槽からの水量の20倍流れ出ているのだ。


 ただし時間の前後がはっきりしていない。九州電力は「16日未明の本震(1時
25分)後」としており、土砂崩れが起きたのは午前3時過ぎに連続した余震のときだ。本震で水路が壊れているなら阿蘇大橋を崩落させた流動性地すべりの原因となった可能性がある。それなのにそのすぐ脇には国土交通省が「立野ダム」を造る工事をしている。





■甘すぎる川内原発の地震予測

 このことも調査が必要だが、その調査を九州電力自身が行っている。もし水路からの漏水が原因なら、「業務上重過失致死傷」の可能性が高く、それを加害者自身に調査させている話になる。まずは第三者である警察や検察が調べるべきことではないか。

 しかも黒川第一発電所は建設から102年も経っているのだから、老朽化していることを考えて対策すべきではなかったか。16日の本震までは、14日の震度7が本震だと考えられていて、しかも群発地震の様相を呈していたのだ。その後に大きな地震が来ることを予期することはできたし、102年経つ黒川第一発電所に送る取水堰を閉じる対応をしておくべきだったと思うのだ。ところがそうした対処をせずに16日の本震を迎えてしまった。


 この経過を見て怖くなるのが川内原発を停止させない九州電力の対応だ。同じ中央構造線の先にあり、国内で唯一再稼働している原発だ。しかも再稼働時に九州電力が申請した「基準地震動」はわずか620ガルしかない。今回の熊本地震で1580ガル、世界最大のギネス記録を持つ日本の「岩手・宮城内陸地震」は4022ガルもあったのだ。東海地震の震源地となる危険のある浜岡原発が1200ガル、中越地震に見舞われた柏崎刈羽原発が1000ガルの基準地震動にしているのに、わずか620ガルしか想定していない。


■自然に謙虚に向き合えないか

 今回の熊本地震がきっかけとなって地震学の進展を調べてみて驚いた。震度は7が最大でそれを超える数値はなく、マグニチュードもほぼ7が上限となっている。今の「マグニチュード9だった」というものは、最近になって使われ始めた上限のない「モーメント・マグニチュード」というものだった。海洋地震の原因がプレートの移動にあるというのは1970年頃になってようやく認識され、陸地での活断層による地震は1980年に本が書かれ、1995年の阪神淡路大震災の後に全国的に調べられるようになったものだという。実はまさに最近になって理解されたものなのだ。


 ではそれ以前に建設されたものは? そうプレート理論もなく、活断層説も知らない時代に設計・建設されたものなのだ。原発の設計時を仮に運転開始の10年前だったと仮定した場合、1980年以前に運転開始した大飯原発までの18基はプレート理論に基づかず、2000年以前に運転開始した柏崎刈羽原発5号機までの36基は活断層を知らずに建てたことになる。川内原発が運転開始したのは1984、85年だから、活断層たる中央構造線に対応していないのだ。それなのに「偏西風地帯、日本」の最も風上で再稼働しているのだ。


 原子力発電所建設の理論では、基準地震動を超えるような大地震は「1万年~100万年に一回」しか起こらないものと考えられてきた。しかし震度7以上の地震は、阪神淡路大震災以降だけでも4回起きている。4万年~400万年も経っていないわずか21年間の間だけで。

 もう少し自然に謙虚に向き合いたい。
そうでないと福島原発の悲劇は再来してしまう。




*** より詳しくお読みになりたい方は、こちらをご参考ください ***

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『「業務上重過失致死傷」を加害者が調べる愚』(2016.6.15発行 第116号)
『地震活動と原発』(2016.5.30発行 第115号)

 をご覧ください。 より詳しく解説、図や写真も多数用いています。


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