2013年12月12日

『福島原発が「津波で事故に」はフィクションだ』

□◆ 田中 優 より ◇■□■□


『福島原発が「津波で事故に」はフィクションだ』


プロメテウスの罠

 原発に関する朝日新聞の連載記事に、すばらしいものがある。「プロメテウスの罠」
だ。その記事の中に登場する元東電社員の木村俊雄さんに先日初めてお会いした。

 東電の専門大学を卒業し、原発内部のデータに精通し、その仕事ゆえに未来を展望
できずに10年以上前に東電を退職している人だ。インターネットで動画も見ていたので
顔も見知っているが、直接お会いしたのは先日が初めてだった。


 一緒に対談する企画で木村さんが話してくれた内容は
  「津波の前に原発は地震で壊れていた」というものだった。

 もし福島第一原発事故が地震で起きていたとしたら、地震についての対策をしなけれ
ば対策に意味はない。これまで2年間、「津波で電源が失われてメルトダウンした」と
されてきたから、現状の原子力規制委員会の規制内容も津波対策に偏っている。

 しかし地震で事故が起きていれば、対策は揺れに対するものでなければならない。
 つまり、現在の対策ではフィクションの原因にフィクションの対策をしただけのこと
になる。


17時19分
 少し専門的な話になるが、可能な限りわかりやすく説明したい。以下はすべて福島第
一1号炉の話だ。

 東電報告書には地震当日の17時19分、「現場確認のために原子炉建屋に入ろうとした
運転員が、すでに線量が高いために引き返した」と記載している。しかし同じ報告書に
は電源を喪失して核燃料の空焚きが始まるのが17時30分、損傷、汚染漏えいに至るのは
深夜ということになっている。

 ではなぜ17時19分の時点ですでに原子炉建屋が汚染されていたのか。しかも汚染の高
い内側から順に、燃料ペレット、燃料棒、圧力容器、格納容器、原子炉建屋、いわゆる
五重の防護の順になっている。その最も汚染されないはずの原子炉建屋がすでに入れな
いほど汚染していたのだ。

 木村さんは東電にいたとき、原子炉内の水の循環データを扱ってきた。そこには飛行
機のフライトレコーダーに相当する「過渡現象記録装置データ」があるはずなのだ。
そこで彼は何度も開示を要求し、ついにそのデータを入手した。100分の1秒毎のデータ
だが、彼はそのデータを扱ってきた数少ない技術者であったから、それを読み解くこと
ができた。


 スキーを始める時にまず知りたいのは止まり方だ。同様に原子炉のブレーキを尋ねる
と、この沸騰水型原発には二つあるそうだ。

 ひとつが制御棒、これは差し込むことに成功した。もうひとつが燃料内の泡の量なの
だ。泡が多いと核分裂を繰り返す中性子の衝突が少なくなって出力が抑えられ、泡が少
ないと出力が上がる。

 この泡をコントロールする装置が再循環ポンプという圧力容器の外側に二つ出ている
ポンプなのだ。この再循環ポンプは炉心の中の水を引き抜き、再び圧力をかけて炉心に
送り込む装置だ。なんとこのポンプは炉心の外側にワイヤーで上から吊られている。
原子炉内の水は70気圧の圧力がかかっていて、水温は280℃で沸騰する。
 
 止めているときはせいぜい40℃程度とすると、240℃の温度差が生じる。するとポン
プにつないだパイプは温度で伸び縮みするため、固定することができずに宙吊りされ
ることになるのだ。


50%の冷却能力の喪失
 再循環ポンプによって送られる炉心の流量は時間当たり2万トンだが、それが停止時に
急激に下がっている。しかし下がったとしても流量は10%は確保され、それによって
炉心冷却能力の50%は維持される設計になっている。

 ところが実際のデータは、10%確保されるどころかマイナスになった後にゼロを指し
示しているのだ。


 つまりあり得ない逆流が起き、後に確保されるはずの10%の流量も失われているの
だ。半分だけは確保されるはずの冷却能力が失われているのだ。逆流したのはどこか
で炉心の水が漏れていたせいではないか。穴があれば70気圧の水は噴き出す。

 気圧がゼロまで下がれば普段の私たちの世界と同じように水は100℃で沸騰する。
ただし太い配管が破断したのではなさそうだ。それならもっと大きな流量変化になって
いたはずだからだ。


 つまり小さな漏れがあり、沸騰水型原発内部でもっと蒸気が大量発生し、それが設計
通りの水の流れを妨げたようだ。冷却できなくなった炉心は東電報告書の言う津波で電
源喪失するより、ずっと早くメルトダウンを始めた。そうだとすると、津波対策や電源
確保をしたとしても解決できない。


地震と細い配管破断
 しかしそれにしても17時19分に、最も外側の原子炉建屋が汚染されたのは早すぎる。
木村さんは原子炉を熟知しているので教えてくれた。最も内側の炉心の圧力容器から、
原子炉建屋へとつながるパイプがあるのだと。

 炉心の流量が確保されているかどうかを見るための水圧計(これは横から)と、
制御棒を駆動させるための配管(97本×2本存在、これは下から)が親指ほどの太さの
パイプでつながっているのだ。

 当日停止中だった4号炉では、この横からのパイプが地震によって破断している。
しかもこのパイプは耐震性能が最も高いPS-1ではなく、はるかにゆるいPS-3で設計され
ている。細いから漏れたとしても深刻な事故には至らないだろうと甘い設計になってい
るのだ。

 それらの管が破断したなら辻つまが合う。遠いはずの原子炉建屋が汚染されたのは、
圧力容器からの配管が直接つながっていたからだ。しかし木村さんはただの炉心水では
ここまで上がらないと言う。おそらく東電報告書よりもずっと早い時点で炉心の燃料は
崩れ始め、それが配管から噴き出す汚染レベルを高くしたのだろうと。それを裏付ける
データもいただいた。木村さんは「9分9厘、間違いないだろう」と説明してくれた。


 原発は地震で壊れていた。

 田中俊一氏率いる原子力規制委員会は未だに津波原因説であり、対策もそこにある。
これでは次の事故を防げない。2000年まで、これほど大きな地震が連続してあるとは
想定していなかった。しかもこの90年間の大地震について、活断層を地表から探して
も、確認できるのはたった2割だけだ。


 そう、原発はやめるしかない。



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11月15日発行 『 原子力規制委員会さん、「水の泡」って知ってる?』
 ・原発固有のアキレス腱
 ・隠されているデータ
 ・原発運転時のブレーキ
 ・守られていなかった計器と細管
 ・おとぎ話の原発規制  など


 そもそも放射能が危険でなければ、原発などむき出しのまま屋外で好きなだけ発電
すればいい。「五重の防護」論にしても、放射能が危険であることを前提としてきた
のだ。その前提を崩して、なぜ「規制」の必要があるのか。

 現在の原発対策は、津波対策と電源確保に偏っている。
 しかし地震で事故が起きているのだから、この対策に意味はない。
 架空の原因に架空の対策をしただけのことだ。

 規制委員会の対策はすべて「水は泡」だ。
 人々が目覚めなければ、おとぎ話の対策がなされ、再度のリアルな事故を招くだろう。

 こんな事故が起きても日本は変われないのだろうか。(本文より抜粋)



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2013/10/04  東電社員、新事実を発表
木村俊雄氏『メルトダウンは津波ではなく地震で引き起こされた!』


 IWJサイト動画⇒ http://iwj.co.jp/wj/open/archives/104956


第1部  木村俊雄さんによる解説
http://www.ustream.tv/recorded/39736493





第2部  解説をふまえて、木村氏、田中優、大塚尚幹氏らによる対談など
http://www.ustream.tv/recorded/39737375


Video streaming by Ustream


 2013年10月4日岡山市の長泉寺で、元東電技術者の木村俊雄氏をメインスピーカーに
迎えて、講演会「メルトダウンは津波ではなく地震で引き起こされた!」が開かれた。
 この8月にようやく公開された、福島第一原発の過渡現象記録装置のデータ解析を終
えた木村氏は、「地震による原子炉停止直後に、本来自然循環するはずの炉内の水が止
まっていた。地震で細い配管の破損が起きた可能性が非常に高い」と力説した。
 これは、「福島第一原発のメルトダウンは、想定内の地震によるもの」ということを
意味し、フクシマショックの原因を、津波から「東電の怠慢」へとシフトさせる力を持
つ新事実である。

 第2部は、田中優氏と、この集会の主催者で木村氏と昵懇の間柄である大塚尚幹氏
(建築士)を加えての討議を行った。

 田中氏は「今、原発推進側は津波対策に力点を置いているが、木村さんの原因究明
で、配管に問題があることが浮き彫りになった。要するに、津波対策に注力して再稼
動させても、また地震があれば、第2、第3のフクシマショックが起きる可能性がある
のだ。私たちは、この重大事実を広く知らしめていかねばならない」と訴えた。

 そして、木村氏が「今日の話は、1号機に関するものだが、2号機と3号機でも、
やはり水の自然循環は止まっていた」と伝えると、田中氏は「ジェットポンプの配管
は耐震上、重要系統として扱われないのか」と疑問を呈した。

 これに対し、木村氏は「クラス3だから重要度は低い。その前提には『微少な漏洩は
問題ではない』という原発推進側の見識があるが、今回の私の解析で、彼らの見識が
間違っていることが証明された」と応じた。(IWJより)