2014年4月2日

『 後継者問題を考える 』

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「未来バンク事業組合ニュースレター No.78/2014年2月」
http://archive.mag2.com/0001300332/index.htmlより


□◆ 田中 優 より ◇■□■□



『 後継者問題を考える 』


■NPOバンクの懸念
 先日、北九州で講演したとき、会場から後継者問題について聞かれた。
「未来バンクの後継者育成をどうしていますか?」と。先日誕生日を迎え
て、57歳になったのだからそろそろ考えた方がいいのは確かだ。
 しかしぼくはこう答えた。

「ぼく自身が誰かに習ったわけじゃない。誰かを育成するなんてできると
も思わない。人は自分で勝手に育つものであって、育てようとすれば
「ミニ田中優」ができるだけじゃないか。そんな人では新たなものを生み
出せる存在にはならないだろう」と。


 ぼくがそうであったように自分で勝手に育つのであって、育てられてで
きる人は「ミニボス」にしかならないと思う。ぼくは誰かの考えに従った
りしないし、誰かを尊敬することはなかった。いつでも自分で考え、また
仲間と一緒に考えてきた。

 ぼくは必要だと思って未来バンクを立ち上げたが、それが絶対じゃない。
しかも立ち上げの多くの部分は事務局長の木村さんがやっている。
 もし未来バンクがなくなって困るようなら、誰かが別な形で新たなもの
を作っていくだろう。


 組織は必要があるから作るのであって、不要であるならなくせばいい。

よく
「組織が存亡の危機です、カンパを」
「避難者支援をしているのに集まりません、支援を」と呼びかけられるが、
要は必要性が乏しくなってしまっているのだからつぶせばいい。


 「組織維持のための組織」ほどバカらしいものはない。「継続は力なり」
とよく言われるが、それも善し悪しだ。必要ないならなくせばいいし、大き
すぎるなら背丈に合わせて縮小すればいいだろう。



■「全国NPOバンク連絡会」での対談

 新春にかこつけて、「全国NPOバンク連絡会」で対談をした。

 論点は三つ。

(1) 寄付は社会に寄生するものを増やさないか?
(2) 伴走支援は情実融資にならないか?
(3) 信用金庫の下請けに進みはしないか?

 その三つを現実に進めている「コミュニティーユースバンクmomo」の
木村さんと、ぼくとがサシでバトルするというものだった。ここでは詳し
く触れないが、問題意識としては以下のようなものだ。


(1)寄付は社会に寄生するものを増やさないか?

 金の集め方は、寄付、出資、融資の3つしかない。

 寄付は返す必要のないもらうおカネだ。
 出資と寄付の違いだが、出資の場合、出資者は口出しできるが、代わり
にリスクも負う。融資の場合は、貸し手はリスクを負わない。相手が事業
に失敗した場合のリスクは背負わないが、代わりに一言も口出ししない。
借り手は家屋敷を売ってでも返済しなければならない。それぞれ性格や
役割が違う。


 今、もてはやされているソーシャルビジネスには、企業のCSRや寄付
頼みのものが多く、企業の不都合で切られるリスクがあるし、企業のCS
R頼みだと企業に意向に逆らえない活動になりがちだ。

 本来のソーシャルビジネスは自分たちで出資して、自分たちでリスクを
負って行うべきなのに、そうなっていない。この社会に寄生した若者をち
やほやする社会起業家なるものを見ていると、社会に対する寄生者を増や
しているだけにしか見えないのだが、運動として寄付を進めていく意味が
あるのだろうか。


(2)伴走支援は情実融資にならないか?

 伴走支援として支援することで事業に失敗したら、相手は返済をしよう
と思わないだろう。なぜなら言うことに従って失敗したのだし、融資をす
る側は圧倒的に強い立場に置かれるのだから従わざるを得なくなるだろう
し。

 出資なら出資者がリスクを背負い、融資なら融資者はは口出ししないの
が基本的な枠組みだが、伴走支援つきの融資は口出しをしながら融資する
構造になるのではないか。融資と出資の枠組みを壊していいものかと懸念
する。


(3)信用金庫の下請けに進みはしないか?

 momoでは信用金庫と組んで事業化を進めているが、もし最初のリスクの
高い時点でNPOバンクが融資して、その後に経営が順調になって信用金
庫から借りられるようになるという流れを作るとしたら、リスクの高い時
点だけNPOバンクが融資することになり、リスクが減少したら信金が融資す
る構図になる。永遠に信金の下請けになるのではという懸念がある。



■コミュニティーユースバンクmomo木村さんの返答

(1) 寄付は社会に寄生するものを増やさないか?

 むしろ返済されないものである以上、融資よりも重い説明責任等の責務
を負うものだと考えている。「介護保険」にしても「子育て支援事業」に
しても、今は法によって行われているが、それ以前は、人々の寄付などに
よって始められたものだった。

 必要な法の支援は最初から想定されているわけではない。最初は市民の
小さな互助の努力によって始められていく(未来バンクでもそれらの事業
に融資した事例もあるが、まさにそうだった)。

 今焦点化しつつある「病児保育」にしても、本当に病児を預かる支援が
必要なのは貧しい母子家庭のような人たちなのだが、今行われている病児
保育では保育料が高すぎてその人たちの利用できるものにはなっていない。

 そのせいで会社を解雇されたり、逆に子どもを自宅に放置して不幸な事
故に遭ってしまう人もいる。ここに公的支援が認められるまでの間、寄付
が必要になることはあるだろう。

 またその寄付は、企業が会社のイメージや経営戦略のためにするCSR
寄付とは違い、地域の活性化を考えているので、地域企業の寄付は受けて
いるものの大企業からは受けていない。それなら寄付が社会に対する寄生
を増やすことはないだろう。


(2)伴走支援は情実融資にならないか?

 momoレンジャーの若者は好き勝手なことを融資先に言っているところも
あるかもしれないが、地域の課題に真摯に向き合っている融資先に、若者
がしれっと言ってもダメージはないだろう。こちらの意見や質問は聞いて
もらったとしても、「受け入れる」かどうかは、支援先みずから決定する。

 また、momoは地域に融資するから顔が見える関係がある分だけ、情実が
絡む心配がある。そこでしがらみのない別の地域の理事を入れている。


(3)信用金庫の下請けに進みはしないか?

 NPOに融資する制度を信用金庫が作っても、使いこなせる職員がいな
い。ならばmomoに学んでもらって人材育成ができれば、地域に資金がより
多く回転させられる。

 つまりこちらが道具として利用されるだけでなければ、十分に組める相
手ではないかという認識ことだ。「信用金庫の下請け化」ではなく、
「信用金庫との協働」になっていくのであればいいのではないか。


 ぼくはmomoの木村さんの話を聞いて、納得するばかりだった。
よく悩んで考え抜いている様子がうかがえた。


■後継者問題、再び


 木村さんは、「その日のうちに自宅に帰って子育てに参加しないといけない」と言って最終の
新幹線で名古屋に帰っていった。帰り際、「優さんを習って進めてきたことですから、優さんに
ほめてもらえてうれしかった
です」と言って去った。

 こうして人は育っていく。後継者を考え悩むぐらいなら、「コミュニティ
ーユースバンクmomo」に引き継いでもらってもいいと思った。

 それだけではない。各地によく考え抜いたNPOバンクの人たちがいる。
それなら各地のNPOバンクに引き継いでもらってもいいだろう。組合員
の人たち自ら選択することができるのだから。

 自分たちでしようと思うならすればいい。組織を残すために後継者を育
てようなんて考えずに、次に育ってくれた芽にバトンタッチすればいいの
ではないか。

 ぼく個人に後継者なんていらない。ぼくらの活動に勇気を得て、新たな
道を進みはじめる人がいてくれれば十分だと思う。