2015年1月20日

『未来バンクが太陽光発電事業に融資しない理由』

田中優無料メルマガより転載

□◆ 田中 優 より ◇■□■□

「ぼくはこういう写真を醜いと思う。
http://digital.asahi.com/articles/photo/AS20141124000268.html

再生可能エネルギーなら何でもいいわけではない。風景や人々の暮らしにマッチしないものはお断りだ。」


その理由などについては、下の「未来バンクニュースレター 未来バンクが太陽光発電事業に融資しない理由」をご参照ください。

2014.11.25発行無料メルマガ:「未来バンクニュースレター」より
http://archive.mag2.com/0001300332/index.html

------------


『未来バンクが太陽光発電事業に融資しない理由』
  未来バンク事業組合 理事長  田中 優


◆融資対象は「環境、福祉、市民事業」


 知っての通り未来バンクの融資は「環境、福祉、市民事業」に特化している。
といってもこれらはとても広いので、自分の金儲けでない限りは大概は該当するのだが。

 しかしぼく自身が融資しないと公言していて実際に融資していないものがある。
それが太陽光発電事業だ。家庭向けの話ではない。収益を出すためにする事業の方だ。

 なぜ融資しないのか。もしそこで作られた電気がほとんど使えないもので、その一方でカネが儲かる事業だとしたらどう考えるだろうか。

 「環境」の観点から言うならほとんど意味がない。その電気がもしほとんど使えないのだとしたら、装置を作って設置した分だけエネルギーの浪費になる。
 それは「環境目的」とは言えない。


 では市民事業という観点からはどうだろうか。もともと事業は個人が集まってするものだから、何だって「市民事業」とこじつけることはできる。そして融資するのに重要なファクターになる「収益、将来見通し」も万全だ。

 なぜなら家庭が屋根に乗せる太陽光発電ではわずか10年間しか買ってもらえないが、10kW以上(畳で言うと40畳の広さ)の小規模事業者の太陽光発電事業なら20年間買ってもらえて、額で比較すると家庭の10kW未満のものと比べて買取額全体で1.8倍も大きくなる。


 しかしこの買取資金は他の電気料金を負担する人たちから集められている。
しかも大きな事業者の電気料金は除外され、一般家庭や小規模な会社が負担させられている。太陽光の設置事業者はさらにグリーン減税されて他の収益からの税負担を逃れられる。そういう形になっているのだ。

 しかしついに今回、このぼろ儲けの仕組みにひびが入った。「固定買取の中断」問題が発生したからだ。

 しかしその前に重要な変更があった。今年の4月のことだ。従来、「大きな太陽光発電を小さく50kW未満ずつに分割して設置することが認められていたが、この4月から同一のものとして分割設置を認めないものにした」のだ。

いったい何の話なんだか分からないだろうから、ここは少していねいに説明しよう。


◆使えない電気でぼろ儲けする事業者
 従来から事業目的でする太陽光発電は10kW以上の設備で、さらに規模によって扱いが三つに分けられている。小さいものが上に書いた10kW以上~50kW未満で、中規模が50kW以上~2000kW未満、巨大なものが2000kW以上だ。

 なぜ分けられているかというと、それぞれつなぐ送電線が異なるからだ。小さなものは低圧線で良い。低圧線は家庭などが受け取っている100~200Vの配線だ。
 中規模は6600Vで電柱の一番上にある三本の配線だ。巨大なものは7000V以上だが実際には2.2万~3.3万Vの特別高圧線になる。それぞれ高圧電流に変圧してから配線に流し込むが、このキュービクル(変圧器)が高い。

 特に巨大なものではさらに自社に常駐する技術者が必要になり、これは大きな負担になる。中規模では技術者は嘱託でもよくなり、キュービクルの価格も200~300万円で済む。しかし小規模なものなら技術者も不要で、設備もキュービクルでなくトランス(25万円程度)で足りる。

 そのために巨大なレベルの太陽光発電を設置しておきながら、50kW未満に分割して設置する事例が相次いだのだ。特に九州では、全体の半分以上が分割されたものだった。


 さらに問題なのは、へき地に設置して送る場合、低圧線につないでいるので送電ロスが大きくなることだ。送電ロスは電圧に反比例して大きくなるから、特別高圧線の数十万倍も大きくなる。

 実態では電信柱を越える毎に電圧が下がり、それを戻すために1%の電気をロスするそうだ。電信柱は30mに一本立つから3000m離れたへき地に作られた太陽光発電からの電気は全く使えないことになる。


 このことから2014年4月から、分割設置が禁止されたのだ。もしこの低圧接続の太陽光事業から融資の希望があったとしよう。いくら市民事業であったとしても、使えない電気を作り出すことに支援はできない。


◆今の送電線では役立てられない

 では家庭や地域にある低圧線に接続する小規模な発電はどうなるのか。

 実際には同じトランスにつながっている家庭は5~10軒なので、トランスの手前で他の家庭に流れていく。しかし低圧なので送電ロスは大きい。しかも家庭は太陽光の発電する日中は、休日以外は不在が多い上に消費電力もきわめて少ない。


 ではトランスを超えた電気はどうなっているだろうか。トランスはコイルを巻いた軸が互いに向かい合っている構造だ。そこではどちらからでも電気は流れる。
しかし困ったことに、この向かい合ったコイルを超えるときに周波数が90度ずれるのだ。

 すると周波数のずれた電気は「無効電流」となり、潤滑油の役割はするものの仕事をする力にならない電気になる。使えないのだ。最初から90度ずれることを見越した電気を流したらどうか。すると今度は近隣に流れる電気の方が無効電流になってしまう。結局、近隣でしか使えないのだ。


 結果として厳密なデータはないが、半分程度しか使えていないだろうというのが現場の人の話だ。それでも自宅の電気の一部は賄うし、他が使える電気もゼロではないから融資は可能だろう。

 しかし事業として行う場合は話は別だ。使えない電気を作って儲ける事業に融資はできない。


◆解決策は「蓄電」

 では今回の固定買取中断についてはどうだろうか。
これを市民団体は送電線の容量の問題として「送電線の増設」や「揚水発電の活用」で解決すべきとしているが、これは全くお門違いの話であることが判明した。


 調べていった結果、容量といっても電気容量ではなく、周波数変動の範囲容量の問題だった。太陽光発電は日が陰ると発電量が一気に十分の一に下がる。電圧についてはパワーコンディショナー(太陽光発電設備に含まれている)でコントロールされるが、発電量そのものはカバーされないから周波数に影響を及ぼすのだ。他の発電所の発電量でカバーしたいが、雲がかかるかからないといった急速な変動には対応できない。

 この急激な出力変動があると周波数が乱れる。最悪の場合、送電線網(グリッド)自体が電気をシャットダウンして停電を起こすことになる。しかもそれは高圧、特別高圧(今回中断されているのは50kW以上の中規模、巨大規模の太陽光発電だけだ)線を止めてしまうので、被害はとてつもなく大きくなる。


 それを解決するには太陽光発電の側にバッテリーを置き、量を整えてから送電すればいい。それをせずに送電線の増設と揚水発電の活用をするならば、原子力や石炭火力発電の今以上の活用を促すことにはつながるが、今回の「周波数変動範囲」という容量問題の対策にはならないのだ。

 つまるところ従来思考の延長線上の「解決策」でしかない。


 もうひとつの低圧側の太陽光発電にも、やはりバッテリーを導入して発電したその場で電気を使う「オンサイト化」が役に立つ。どちらにしても蓄電池以外の解決策は言葉だけの無意味な対策なのだ。


◆今や「自エネ組」で自給も可能

 未来バンクが太陽光発電事業に融資しない理由がお分かりいただけただろうか。
 私たちは本当の解決策を求めている。単なる形だけの偽の「解決策」には融資しない。その意思があって初めて市民金融と呼べるのだと思っている。

 しかし今や、バッテリーを組んで電気を自給する仕組みも伸びてきた。「自エネ組」で出しているキットでは、モノだけの価格では108万(税込)だ。個別製品に保証があるだけで、システムに保証もないし自分たちで設置するものだが、今や安く設置できる時代になった。こちらならもちろん融資対象になる。


 未来バンクは世間受けではなく、本当の解決策を求めている。
 世間の風潮ではなく、本当のことを大事にしていきたい。