2016年5月27日

「パナマ文書」と「タックスヘイブン」

2016.5.25発行 田中優無料メルマガより


「パナマ文書」と「タックスヘイブン」


■「パナマ文書」の公開

 インターネットでは大きな問題になっている「パナマ文書」だが、アイスランドでは首相が辞任に追い込まれている。日本のメディアでも、ようやく少し報道される話となりつつあるが、なぜか日本では「脱税ではない、節税だ、合法だ」とばかり伝えられる。「タックスヘイブン」だの「オフショア取引」だのという耳慣れないカタカナのおかげで、日本で知られるには、まだ時間がかかるかもしれない。

 このタックスヘイブンは「税の逃避地」を意味する。税金を掛けられずにすむように、税の逃避地に資産を移すことだ。複数の国にまたがって取引した場合、下手すれば二重課税される。二重課税は税当局で調整するだけで足りるが、そのために各国の税制を調べると、二重課税を避けるどころか二重に「非課税を獲得する」方法が見つかるのだ。

 オフショアの仕組みを説明するのに、多くの人が使ったことがある仕組みがある。空港で国際線に乗るために出国手続きを終えると、免税品が並んでいる。そこだと税を負担せずに、「酒、タバコ、香水」などを買うことができる。ここは出国した先の場所なのでその国の税金はかからず、次に訪れる国の税関までは税のかからない「エアポケット」になっている。もちろん次の国の関税では許される量以上は課税される。これを「オフショア」という。

 ショアは波打ち際のことだから、波打ち際の外側という意味になる。国と国の間の国家支配のエアポケットなのだ。自国に金融企業を招くために「オフショア市場」を作ったり、課税前の資金のための「オフショア取引」をしたりする。



■税制の違いを税逃れに使う

 あるときパプアニューギニア(以下「パプア」と略す)の最高裁の判事が暴漢に襲われた。やっとのことで一命をとりとめたが、襲われた理由が問題だった。

 その判事は「移転価格」という貿易取引を調査し、それがパプア政府に対してどれほど損失を与えたかというレポートを作成していたのだ。そこには日本の日商岩井(現在はニチメンと合併して「双日」になっている)の名もあった。

 その「移転価格」とはどのようなものか。日商岩井はパプアで合弁会社を作り、そこで伐採した熱帯林木材を日本に輸出していた。木材そのものはパプアから日本に輸出されるのだが、その取引書類は別なルートを通る。税率が低い香港に置いた「ペーパーカンパニー(紙の上でしか存在しない会社)」の子会社を経由して日本に送られた形をとる。そしてパプアから輸出する木材は安値で利益がない形にしてパプアに納税せず、日本では逆に高値で輸入したために利益が出せずに納税しない。


 木材は直接日本に届いているのに、取引書類だけで両国の納税義務を逃れるのだ。利益を出すのは香港のペーパーカンパニーだが、そもそも香港は税率が安いために納税額は最低ですむ。

 このように価格をタックスヘイブンに置いた書類の会社に移転する仕組みを、「価格移転」と呼ぶ。

 一命をとりとめた判事はその後、レポートを完成し公表した。こうした貿易制度の悪用に対して、日本はかつて贈与処理していたが、1986年からは「移転価格税制」を作って規制している。それでも未だ税の修正申告の例は多いだけでなく、「価格移転」のための求人も行われ続けている。

 税制は各国ごとに異なるのだ。各国の税制には大きく「居住地国課税」と「源泉地国課税」があり、居住者や法人のみに課税する国と、利益が計上される国で課税する国とがある。またオランダは、「ロイヤリティー(特許権・著作権・商標などの使用料)}に課税しない国だ。

 したがって複数の国で活動する企業は、どの利益をどの国に計上れば税負担が少ないかを考えて子会社を作る。その結果税負担を逃れるか、著しく低額にすることができるのだ。こうした各国の条約を調べることを「条約あさり」と呼び、そのアドバイスをするのが特定の「国際法律事務所」だ。今回の「パナマ文書」とは、国際法律事務所からリークされた莫大な顧客データを指している。


■増税以前に税逃れの解明を

 これを「適法だ」と主張する企業があるが、節税か脱税かを問わず税逃れをされた国では税収が著しく減少する。減った分は他の一般市民の負担になる。私たち納税する側から見れば、著しい「税の不公正」であることは確かだ。そのため世界では大きな問題となり、名前が上がった政府首脳が辞職したりしているのだ。

 今回暴露されたのはパナマの一法律事務所のデータにすぎない。タックスヘイブンとして使われる地域や国は百を超え、そこに個人資産だけでも30兆ドル(日本円なら約3000兆円)の資産が隠されている。もしそれに課税できたなら、世界の税収は少なくとも30兆円増えている。日本は世界第二位のタックスヘイブン利用者のいる国で、個人以外に企業の収益もあるのだから、日本は消費税増税どころか減税できたはずだ。

 しかし日本政府は「全世界課税方式」といって、日本居住者が全世界で得た所得に対して課税し、二重課税があるなら申告後に調整する方式をとっている。

 タックスヘイブンを含めて国外で所得を得れば、税務当局へ申告しなければなら ない義務がある。これがなければ脱税なのだ。さらに「タックスヘイブン対策税制」があり、日本人に直接・間接に保有されている会社もまた、留保金などを申告する義務がある。個人も雑所得として申告する義務がある。さらに2014年からは「国外財産調書」が導入され、5000万円を超える国外財産を保有する居住者も申告を義務づけられ、懲役刑つきの重罪だ。

 ところが「国外財産調書」の提出枚数は、2013年で5639枚、2014年分で8184枚しか提出されていない。


 タックスヘイブンには莫大な資産が隠されている。この資産を国内で使うためには、マネーロンダリングが必要になり、犯罪組織マフィアにまで資金が流れていく。

 「パナマ文書」が日本で隠されようとするのには理由がある。巨大企業と資産家たちが税逃れをしているために、私たちの税負担を重くし、福祉を後退させているのだ。それらの資金を白日の下にさらさなければならない。



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