2017年6月1日

『 自分で考えないと危険な日本 』

2017.5.26田中優無料メルマガより

『 自分で考えないと危険な日本 』



■福島での森林火災

 この大型連休の始め、4月28日に発生した福島県浪江町の十万山で発生した山林火災は、なかなか鎮火しない。いったん鎮火したかに見えたものの再び強風にあおられ、再度燃え広がったためその後の鎮火報道はないままだ。

 帰還可能な地域にもなっていない浪江町での火災で、しかも除染も道路からわずかしかされていないのだから、放射能汚染がたっぷりある地域の火災だ。


 当然放射能の飛散が心配になる。ところが福島県は「浪江町の林野火災における放射線モニタリング状況等について」というサイトで、「放射性物質が飛散する」といった情報がインターネット上に流れておりますが、火災現場周辺の環境モニタリングおいても火災の発生前後で空間線量率に変動はなく、…周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と強く否定している。
 どちらが正しいのだろうか。


 「福島はもともと高い値なので検出できず、低い東京の方が5月1日に観測できた」とするデータもあったが調べてみると誤りだった。その日は雨が短時間降り、雨とともに「ビスマス」という自然由来の放射性物質が落ちてきて高くしたもので、福島の森林火災の影響ではない。雨の日のデータは「ビスマスの影響に要注意」なのだ。そうして見てみると、直接的な放射線量の影響はないようだ。


 それはそうだ。放射線は放射性物質から四方八方に飛ぶ。その放射線が小さな検出器に当たらなければカウントされないのだから、よほどの量が飛んでこない限りカウントできない。今の福島の汚染地は、ものすごく多い放射能が地表に存在するおかげでカウントできるのだ。


 そもそも原発事故の放射能は6年経ち、汚染で見ると第二ステージに入っている。第一ステージとされるのは事故後4年までで、4年目以降15年後までを第二ステージと考える。なぜなら最初に出てくる放射性物質のうち、半減期が短く短期間で安定して消えるものが多くあるからだ。その第一ステージが4年間なのだ。
 
 たとえば「ヨウ素131」は半減期が8日だからとっくに消えているし、「セシウム134」は半減期2年だから四分の一まで減っている。その後には、半減期が30年程度の「セシウム137」や「ストロンチウム90」などと、半減期が何万年という「プルトニウム」など巨大な元素だけが残る。今回は森林火災で、原子炉の事故ではないから新たな放射性物質の放出はないのだ。


■内部被ばくが危険


 なら安全なのかと言えば全く違う。特にセシウムは、せっかく木の内側や落ち葉の中に安定していたのに、火災が「寝た子を起こす」ことになるからだ。セシウムは反応性が高く、落ち葉や粘土などと反応して容易に分離しない状態になっている。しかしセシウムは金属の中で例外的に気化温度が低く、森林火災の熱で気化する可能性がある。気化したセシウムは小さな粒となって飛び散る。そこから発せられる放射線量は多くなくても、呼吸や飲食物とともに体内に入れたときには危険になる。


 四方八方に飛び散る放射線が人体な当たる確率は、ちょうど球体に対する体の表面積となるから、距離の二乗に反比例する。ところが体内に入れてしまえば確実にどこかの細胞に当たる。これを「内部被ばく」と言うが、この影響の方が怖いのだ。呼吸で取り入れないためには外出時にマスクをした方がいい。セシウムは反応性が高いから、大きな玉になりやすい。花粉より大きい粒なら花粉症用マスクで防げるのだ。しかし気化したものはそれより小さく、特殊なマスクでないと防げない。東京まで飛ぶ間には玉になっていると思うが、火災温度によっては小さな粒子のままかもしれない。

 食べ物に降り積もっても洗えば落ちる。しかし一か月後からは食べ物の中に含まれる。今ではなく、一か月後からの食べ物に注意が必要になるのだ。放射線によって壊される細胞と病気との関係は、「確率的影響」になる。誰が病気になるかは特定できないが、浴びた量に比例して発病の確率が高くなるのだ。


 山火事を金輪際起こしてほしくないが、その確率は高まっている。落ち葉などを分解している微生物や微小生物が放射能の影響で激減していて、落ち葉を腐葉土に戻す速度が落ちているのだ。枯れ葉が分解されないから火災の可能性は高まっている。しかも福島県は冬に降水量が少なく、特に雪が溶けた後の4月から6月は要注意となるのだ。

 人のいない浪江町には消防団の人たちもいないし監視する人もいない。もともと関東は冬場の北風で、北に降り積もった放射性物質が舞い上がる。冬場の1月から3月はマスクをした方がいいのだが、火災を考えるとその期間がさらに長くなってしまうのだ。しかもこれは今後もずっと長く続く事態になる。原発事故を起こしてしまった国の宿命なのだ。

 春になっても山菜は食べられない。山菜やタケノコは特に放射能を集めやすい。
補償額は現金支出で計算するから山から得ていた山菜や木の実、魚などは金銭的にも補償されない。不自由な上に補償すらされないのだ。



■闇に消される1082人の甲状腺がん


 さらに理不尽なのが山本太郎議員が明らかにした事実だ。4月14日、「復興特別委員会」※でのこと、これまでの甲状腺がんの発症数は、すべてシナリオ通りに福島県民健康調査の甲状腺検査の評価から、二次審査に進んでガンが発見されたものだけに限定されていた。調査後に具合が悪くなって他の病院で通常診療を受けたものも含まれていない。

 そこで別の資料から、福島県内の9つの病院で手術された甲状腺がんの数を尋ねた。その答えはこれまでの184人ではなかった。一桁多い1082人だった。この数には一病院で年間10件以下の手術の場合は含まれない。その発症数を見ると、2013年以降はそれ以前の二倍を超えている。これでも御用学者たちは「放射能の影響とは考えにくい」と言うのだろうか。

 これは「ヨウ素131」の影響だから、今回の火災とは関係しない。しかし被害が隠され、補償されないことを証明している。日本では自分たちで調べなければ「死に損」になる。情報を得て自分で考えることが必要なことだけは確かだ。


(2017年5月上旬に川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。)


※「参議院議員 山本太郎」オフィシャルホームページ
2017.4.14 復興特別委員会「1082人の甲状腺がんについて」
http://www.taro-yamamoto.jp/national-diet/7060



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