2018年4月26日

『 なぜ故郷を水没させなくてはならない? 』

▼「石木ダム」

 先日長崎県の石木川に出かけた。前から行きたかった石木川ダム予定地を見に行くためだ。ダム予定地には今なお13世帯約60人が住んでいて、ダム建設反対の運動をしているからだ。どうして反対しているのか、どんな場所なのか知りたいと思っていた。

 ぜひ機会があったら見てほしい。石木川はものすごく小さな小川で、水没予定地のこうばる地区の人たちが抵抗を続けている。たぶんこの運動は勝つと思う。石木ダムは必要性に乏しく、知られていけば止められるダムだと思うからだ。





 国内で反対運動の成功体験を味わうには最適な場所だと思う。現地の人たちは団結し、カネで買われない地道な活動を楽しく続けている。楽しくないと続けられない。普通の人たちの抵抗運動はこうして成功に至るという体験をすることができると思う。


▼ダムを造る理由

 ダムの予定されている石木川は、川棚川の支流になっている。川棚川が大村湾に注ぐすぐ手前のところで支流の石木川が注ぐ。そこにダムを造って隣の佐世保市の水道水を補い、川棚川の氾濫を防ぐのが目的となっている。でもこの目的そのものが虚構に近い。

 まず氾濫防止だが、石木川が川棚川に流れ込むのは下流域だ。ところがその川棚川の人命や財産が集中するのは、はるか上流の波佐見町なのだ。しかも波佐見町の想定されてるのは30年に一度の大雨だ。最下流が100年に一度の大雨に耐えられるように想定しているのに、人口集中地の手当てが十分ではない。
その土地を守るなら、波佐見町の上流を手当てすべきなのにそうなっていない。

 石木川が氾濫したとしても、下流で合流するのだから川棚川を遡って氾濫することなどありえない。しかも石木川の集水域は、川棚川全体の11%でしかない。
このダムが造られても波佐見町には何のメリットもないのだ。そして下流域を100年に一度の洪水から守りたいのだとしたら、今ある堤防を部分的に4センチかさ上げするだけでいい。ダムを造る必要はないのだ。

 もう一つ理由にされているのが佐世保市の渇水だが、佐世保市の水需要の想定だけがぐんぐん伸びることになっているだけなのだ。実際の水需要は毎年減り続けている。今後さらに人口は減る見通しだから、こんな水需要はあり得ない。


 しかも佐世保市は、人口20万人以上の水道事業の中で下から5番目に無収水率(カネにならなかった水量)が高い。その理由はなんと漏水なのだ。届けている水道の11%以上が漏水で勝手にこぼれている。ダムの完成予定は早くても2022年だが、その頃には人口も減り、水需要も減り、漏水が改善できればそれだけで足りてしまう。それなのに他市町村の土地を水没させてダムを造ろうとしている。


 ただ先祖伝来の土地に住み続けたいだけなのに、それが強情のように言われるいわれはないのだ。

 川が下から上に流れるのでなければ、洪水にはならない。いきなり佐世保市の人口が急増して水需要が激増しなければ渇水も起こらない。そんな根拠のないダムなのだ。


▼ダムを造った場合の影響

 ぼくは大村湾が死んでしまうのが最大の被害になると思う。地図で見てもらえば一目瞭然だが、長崎空港のある大村湾は閉鎖性海域だ。細い2箇所でしか海につながっていない。その大村湾に流れ込む川で最大なのが、この川棚川だ。

 ところがその水を佐世保市に奪われたら、水は別な海域に流れることになるから大村湾は浄化されなくなる。するともっと水は入れ替わらなくなり、すでに水揚げ量が減ってしまっている大村湾での漁業は、壊滅的になるだろう。漁獲高の問題どころか湾をドブにしてしまうかもしれない。国内屈指の美しい長崎空港がドブに囲まれたら、長崎に行こうとも思うなくなるだろう。


 このダムが予定されたおかげで、こうばる地区は道路の改修費や公民館の改修費も支給されなくなった。おかげで地元の人たちが自費で賄わなければならない。
税金は払っているのに差別を受けるのだ。


 でも逆に良い面もあった。土手をコンクリートにするような改修工事がされなかったために、清流が保たれているのだ。そこにはホタルが乱舞する美しい地域が残された。そこでこうばる地区の人たちは「ほたる祭り」を始めると同時に、ホタルを減らさないようにと農薬をなるべく使わないようにした。

 おかげでサンクチュアリのような場所が残った。かつて長崎に来たシーボルトが採集した日本の淡水魚標本19種のの中の、12種までが石木川に見つかるのだ。
ダム予定のおかげで残された最後かもしれないサンクチュアリを、根拠の乏しい理由のために壊してしまっていいのだろうか。もう二度と戻せないのに。


▼石木ダムは造らせない

 すでに新たな運動もあちこちに始まっている。「ほたるの川の守りびと」というドキュメンタリー映画が上映されて、特別な人ではない普通に暮らす人々のやまれぬ思いの運動であることが知られるようになり、関わる人が増えている。

 さらに小林武史さんやサリュー、坂本龍一さんや加藤登紀子さんが関わってくれてさらに周知されるようになった。友人は佐世保市で県議にも実態を知らせるために奔走してくれている。

 これら全体の動きが、ぶれない地元の人たちの運動に合流したのだ。ぼくはもう一つ、労働組合にも参加してほしい。もともとは参加していたのが、いつからか関わらなくなってしまった。なにせ現在の通説的見解と言われる説では、「違法な業務命令であっても、公務員は判断する権利がないから従うしかない」とされているからだろう。

 世界でロボット兵器が問題にされている。しかしそれ以前に日本では人をロボットのように使うことができるのだ。こんな見解は間違っている。人はまず良心に従って生きるものだ。自分の良心に従って生きることが服務違反にされるなら、その服務が憲法違反であるはずだ。私たちは奴隷やロボットではない。「人間解放」が必要なのは中世ばかりじゃなくて、絶え間なく権利を求めて闘う労働者も同じではないか。



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田中優有料・活動支援版メルマガ 2018.4.15発行 第160号

『 石木ダム建設予定地にて 

  ~住むんだったらここがいい!~ 』


グラフや写真を多用して解説しています。
4/末までのご登録で、“無料”でお読み頂けます。
→ http://www.mag2.com/m/0001363131.html



以下本文より

「先日初めて石木ダム予定地を訪ねた。以前から一度は行ってみたい場所だった。

どんな場所がダムに沈められようとしているのか。
何か手伝えることはないだろうか。

そんな思いで出掛けたかったのだ。

(中略)


そうすると見事にこうばる地区だけが水没するのだ。
この地域には今の倍以上の人が住んでいた。ところが不安定な立場に耐えられず、しかも度重なる県職員の圧力に耐えられず、しかも高額な土地収用額に揺さぶられて人々は立ち去っていった。そして現在の13世帯、約60名だけが残ったのだ。


地域の公民館は「どうせ水没するから」と修繕費も支給されず、地域の道路舗装すら自分たちで負担しなければならなかった。その公民館の屋根の補修は、「パタゴニア社」の協力で、クラウドファンディングで集めたそうだ。

 さらに収用の名のもとに補償金が払われ、それを拒否するために「供託」して受け取らないようにしている。ところがそれに対しても「所得」として税負担が掛かってくるのだ。  (中略)


「嫌がらせに耐えても何になるのか」、「わずか60名で何ができるか」という声が聞こえてきそうだ。しかしそうして耐えた人たちだからこその良さがある。何より仲良しで、一致団結したコミュニティーがあるのだ。そこに行ってみて、何より楽しかった。また来たいと思う。できることなら住みたいと思うほどだ。


 なぜただ故郷に住み続けたいだけなのに、こんな目に遭わされなければならないのか。そのダムは利水からも治水から見ても意味がないのに。この国ではお上の横暴に黙って従う人以外は、生きる価値がないかのように扱われる。


 でもぼくは、この闘いは勝てると思う。何より人々が楽しんでいて、関わってくれる人が日々増え続け、この動きはどうやったとしても止められないからだ、そうなればこの運動は持続するし、やがて無視できないほどの大きな運動になる。

 だから多くの人に関わってほしい。

これは歴史を変えていく第一歩を刻むかもしれないのだ。 」



~~メルマガ最後より~~


石木ダム建設予定地を歩いていたら一人のおばあさんに会いました。

どこが建設予定地ですか?と聞いたところ、
「ダムの底に沈むのは、今私たちがいるここら辺だよ。」と教えてくれました。

そのおばあさんの家は、私たちのすぐ目の前にありました。


ほたるが住むほどきれいな川、色とりどりの花、大きな桜・・
そしてそこで生活している人たちが今もいます。


ダム建設の話ができたのは今から約半世紀も前です。 


今では残ったたった13世帯の人たちが、まるでひとつの家族のように、 
54人が力を合わせて毎日工事をさせまいと反対運動をしています。 













「クヨクヨしてもはじまらんですもんね」

「機動隊からもやられたけんですね」

「殺されてもよかって覚悟をしとります」

とおばあちゃんたちは笑いながら言います。



「ニュースではすごい怖い人たちが抗議している風にしかとらえられていない。
ちょっとそれは違うよ、って」(女性)


「子どもたちには(反対運動は)させたくない。
彼には彼の人生があって夢がある。」(男性)


-ごく普通の暮らしを  ごく普通にしたい-






1人でも多くの方にこのことを知って頂きたいと思います。

今後も田中優のSNSでも発信していきます。


取材時に撮った写真もご覧ください (田中優スタッフ)


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★映画「ほたるの川のまもりびと」 http://hotarunagasaki.strikingly.com/






★動画「劇場版『ほたるの川のまもりびと』予告編」 
https://youtu.be/ngZ8VncJkng



★「ほたるの川のまもりびと」 Facebook https://www.facebook.com/savekobaru/


★石木川まもり隊 http://ishikigawa.jp/


★パタゴニアが長崎県石木ダム建設反対活動を支援する理由
 http://wash-me.jp/patagonia_interview_2


★動画:プロテクターズ・オブ・ファイアフライ・リバー
 (ほたるの川のまもりびと/パタゴニア特別限定版):パタゴニア
  https://youtu.be/hq2F3uyP5JQ

 

★【イベント】5月6日「ほたるの里から長崎をかえよう千人の集い」
 ~加藤登紀子さんのミニコンサートつき~
  https://www.facebook.com/events/1361120560656820/